札幌市の西方に聳える手稲(テイネ)山も雪解けが進んでいます。一ヶ月前までは全山が厚い雪に埋もれていましたが、今は山の中腹まで樹木が雪を覆い隠すようになりました。
いよいよ私の山遊びの季節が到来したのです。
4月26日、早春の山の息吹を求めて手稲山へ向かいました。
雪がほとんど消えた山麓の林では、早くもエゾエンゴサクが咲き、甘い香りを漂わせていました。春が来たことを実感させられます。
カタクリも咲き始めていました。来週には林床一面がこの花で埋め尽くされることでしょう。
ナニワズが黄色い花を咲かせています。背の低い潅木ですが、雪の下から現れる緑の葉は夏には落葉してしまうので、地味ですがこの花は貴重な早春の花なのです。
雪が消えると芽を出してくるオオウバユリが葉を開き始めています。ツヤツヤした厚い葉に赤い葉脈がまるで血管のように広がっています。葉が大きくなるにつれて赤い葉脈は色あせてしまうので、この色合いが見られるのは雪解けの時期だけです。
花が咲くまで10年もかかるというオオウバユリです。大切にしたいものです。
登山道に入ると、クマ注意報の看板が。この付近でクマが目撃されたとのこと。日付を見ると、何と今日ではありませんか! きっと朝早くだったのでしょう。
そういえば、2年ほど前の今頃、この近くの山林の湿地の泥の上にクマの足跡があったことを思い出しました。同じクマさんなのか?
山道脇の林にはまだ雪がかなり残っていました。クマの足跡があるかもしれませんが、探すのは止めました。
峰々から流れ落ちる雪解け水を集めて、山道脇の増水した川水は勢いよく流れ下って行きます。
雪が解けた林の木の枝に白いビニール袋がぶら下がっていました。ハテ?何だろうと近寄ってみると、それは袋ではなくて、泥が付いた雪のかたまりでした。
冬のあいだ、重い根雪の下敷きになっていた木の枝が、雪解けとともにエイヤッとばかりに残雪をはねのけて立ち上がった時に、枝を包むように付着していた雪の一部も同時に持ち上げられたのでしょう。細い枝ながらその弾力、強い生命力に脱帽です。
雪が消えたばかりの地面に何やら赤い花が?と思ったら、小さな赤いキノコでした。お椀のような面白い形です。これぞ、雪解けの時期に出るベニチャワンタケです。雪が残っていれば一段と華やかだったでしょう。
英語名は、スカーレット・エルフ・キャップ(妖精のような緋色のキノコ)、何とも優雅な名前ですね。
倒木の上に小さなエノキタケがありました。このキノコは別名ユキノシタとも呼ばれる寒さに強いキノコで、雪の下でも生長します。でも、雪が解けて日が当たるとすぐに乾燥してしまいます。
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山道の真ん中に枯れ木が倒れていました。木の下には木屑が山盛りになっています。木の皮がきれいに剥がされています。
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よく見ると剥がされた木の上に黒い米粒のようなものが固まっています。ネズミの糞のようです。
どうやら野ネズミ(エゾヤチネズミ?)が雪の下の倒木の皮を食べていたのでしょう。冬眠しないネズミは冬のあいだ、雪の下に穴を掘り倒木の皮をせっせと食べ続けていたようです。
雪解けの水たまりにエゾアカガエルの卵が産みつけられていました。付近からはコロコロという柔らかで優しいカエルの鳴き声が聞こえてきます。
優しい声ですが、彼らは今、メスを求めてオス同士が激しく争っている最中なのです。
カエルの卵の近くには多くの場合、エゾサンショウウオの卵も産みつけられています。カエルの卵よりも大きく、太い筒状の膜に包まれています。
孵化したカエルのオタマジャクシは水中の枯れ葉や水苔を食べて生長しますが、エゾサンショウウオのオタマジャクシは肉食ですから、カエルのオタマジャクシを食べて生長します。ですからサンショウウオの母さんは子供のためにカエルの卵のそばで産卵するのです。
水中に細長い尾が見えたので引き上げてみるとエゾサンショウウオでした。しかし上半身の皮が剥がれ内蔵も露出していました。何かに襲われたようです。鳥か小動物の仕業でしょうか。半身が残っているということは、エゾサンショウウオはあまり美味しい獲物ではないのかもしれません。
山の中腹近くまで登ってきました。ここの山道脇の湿地に、水芭蕉の小さな群落があるのです。まだ早いかと思っていましたが、咲き始めていました。
登ってくる途中の汚れた残雪を見てきた眼には、水芭蕉の純白の苞(葉の変形)が一際鮮やかに、高貴に感じられました。
さらに上まで登ろうと考えていたのですが、頂上へと続く山道はまだ残雪が深いようです。雪崩の危険もあり、本日はここまでとしました。
下山の途中、林の中からカエルの鳴き声が聞こえて来ました。そこは昔、鉱山で働く人たちの住居があった場所ですが、今は草木が茂る林になっています。住居は撤去されていますが、当時、防火用の水槽にでも使われていたのか、所々に1m × 2m、深さ1mほどのコンクリートの水槽が残されており、中には水が溜まっています。その中にカエルがいるので、写真を撮ろうと近寄ったところ、とんでもないものが見つかったのです。
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水が30cmほど貯留した水槽に動物の死体が浮いていたのです。
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ネコかと思いましたが、引き上げてみたらタヌキ(エゾタヌキ)でした。どうして転落したのかわかりませんが、水槽のコンクリート壁は垂直なので這い上がることができなかったのでしょう。
キツネなら苦もなく飛び出せたでしょうが、短足のタヌキには無理だったのです。
水位は高くはないものの、夜は氷点下まで下がる水中に長く浸かっていれば、寒さに強いタヌキといえども耐えきれなかったのでしょう。
新しい生命の誕生で活気づく一方で、終わる生命もある春の山でした。
山を出て町へ向かう途中の民家の横では、エゾヤマザクラのツボミが膨らみ、花が一輪、開花していました。いよいよ、本格的な北国の春の訪れです。